鍼灸の効果の仕組み
東洋医学をもとにして成立している鍼灸治療ですが、現代医学の立場からその作用機序が解明されつつあります。
ここでは現時点で認められていることについて説明したいと思います。
まずは鍼灸治療は人体の「反射」というものを利用していると考えられています。反射とはまぶしい光を見ると自然にまぶたが閉じるように、刺激に対して意志とは関係なく身体が反応することを反射といいます。
はりやお灸で身体に刺激を加えることで反射が起こり、身体にはいくつかの反応があらわれます。
局所性反応
皮膚にはりを刺入すると、即座に血管が拡張して血流が増加します。結果、その部位への新鮮な酸素や栄養素の供給が行われ、老廃物は流されていきます。
そして筋肉の緊張は緩和され、こりがほぐれていきます。なぜならこりとは血流の循環が悪くなったことにより固くなった状態だからです。
全身性反応
鍼灸には刺激部位から離れた部位へも効果をあらわします。
自律神経、ホルモン分泌への影響
身体に加えられたはりの刺激の情報は、脳にある自律神経核にも伝えられることがわかってきました。
自律神経は呼吸や心臓、消化管など私たちの生命を維持していく上で重要な機能を調節しています。
そして自律神経は交感神経と副交感神経の2系統に分かれ、1つの器官に対して反対の働きをします。例えば心臓では交感神経が働くと心拍数の増加、心収縮力は増大し血圧は上がります。副交感神経が働くと反対に心拍数は減少、心収縮力も低下し血圧は下がります。
このようにして2つの神経がシーソーのようにバランスをとることによって生命を維持しています。
体にストレスが加わると自律神経が乱れ、さまざまな不調があらわれますが、はりの刺激により自律神経のバランスを整えれば症状を改善することができます。
さらにはりの刺激の情報は、ホルモンの分泌を調整している下垂体という部位にも届けられます。ホルモンも自律神経と同時に内臓諸器官の働きを調節していますが、はり刺激によってホルモンのバランスを整える可能性が考えられています。
鎮痛作用
はりの刺激によって、脳からモルヒネ様物質(エンドルフィン、エンケファリンなど)が分泌されます。
これらの物質は鎮痛作用のほかにも精神的ストレスを解消したり、多幸感をもたらす効果があるといわれています。マラソンで長時間走り続けると気分が高揚してくる「ランナーズハイ」はこのエンドルフィンの分泌によるものです。
他に、はり刺激によって痛みを伝える経路を遮断するという効果も報告されています。
免疫力の増加作用
はりの刺激によってナチュラルキラー細胞(免疫細胞)の活性が高まることが明らかにされています。
免疫細胞が活性化すると、外から人体に侵入してきた敵(細菌やウイルスなど)を攻撃しますので、当然病気になりにくくなります。
もともと鍼灸治療は病気の予防に高い効果があるといわれてきましたが、その理由が証明されたわけです。
精神安定作用
先にも記述しましたが、はりには自律神経のバランスを整える作用があります。おもに交感神経は活動時やストレスを感じた時に高まり、副交感神経は安静にしたときやリラックスしたときに高まります。
そしてはりの刺激によって交感神経の抑制と副交感神経の亢進が認められ、リラクゼーション効果があることがわかりました。
そして上記のエンドルフィンの分泌による多幸感もあります。
まとめ
このように現在判明している鍼灸治療の効果の仕組みを挙げてみました。これまで鍼灸は効果は認められても科学性に乏しいという理由で現代医学からはあまり評価されていませんでしたが、近年ではあらゆる現場で鍼灸が取り入れられています。
さらに研究がすすめば「東洋の神秘」ともいわれてきた鍼灸の全貌は解き明かされていくでしょう。